CROSSOVER
JAPAN '03
 

日時:2003年5月24日(土)
会場:よみうりランドEAST
出演:カシオペアwith神保彰、松岡直也グループ、NANIWA EXP、鈴木茂、THE SQUARE、PARACHUTE、高中正義

有体に言ってしまえば、オヤジ達のためのイベントである。
チケットを購入したのがずいぶん前だったので、今となっては何故このイベントに行こうと思ったのか思い出せないが、あまりにも凄いメンバーのため、つい申込ボタンを押してしまったのだろう。

上記の出演者を見て、ワカラン人は何もワカランでしょうが、分かる人にはどれくらい凄いメンバーかはお分かりいただけるかと思います。いずれにせよオヤジの集まりですが。
よく考えると、私、熱狂的に好きなグループって特にないんですよね、この中に(笑)。何故行こうと思ったんだか。
ただ、超一流の演奏を生で聞いてみたい、という思いはあったんです。超一流のプレイはもう凄い。大満足。感動して泣きました。

それにしても長かった。各グループ45分、休憩(兼セッティング)各15分のローテーションをきっちり守り、実に7時間!ちょっと考えればそれくらいかかることは分かったはずなんですけどね。
しかも休憩のうち3〜4回は、楽屋で盛り上がった出演者数名がステージ脇で即興セッションをするサービス付き。
労働基準法で定めている一日の労働時間が、休憩1時間入れて8時間ですからね、一日の実働時間と同じだけ音楽漬けになっていたわけです。

ちなみにクロスオーバー(正確には“クロスオーバー・ミュージック”)とは、後に“フュージョン”(=融合)と呼ばれ一つの音楽ジャンルとして確立する以前の呼び名で、70年代前半からジャズやR&B等々(挙げたらキリがない)様々なジャンルの垣根を超え融合した音楽を指し、“越境”という意味だそうです(今知った)。

とうわけで、いずれにせよオヤジ達の集まりだったわけですが、その客層は(もちろん若い子や女性も大勢いましたが)、大半が私より少し年配の方々。イベントが始まる前には悲しくなりました。
遊園地(会場はよみうりランド内)という場所に不釣り合いのオヤジ達。似合わないカジュアルな服装。頭も薄くなってるし。休日に子供のために嫌々遊園地に付き合わされたお父さん達が7〜8千人もゾロゾロいると思って下さい。それにほら、こういう音楽好きってことは明らかにスポーツマンじゃないんですよ。どっちかっていうと文科系。悪く言えば元オタク。
「自分もこんな風に見られているんだなあ」と思うとひどく悲しくなりましてね。

ところがイベントが始まり、時間が経つにつれ変わってくるんです。
終わる頃には、「少年のような顔になっている」と言ったら言い過ぎですが、皆若返っている。顔が輝いている(ビール飲んでるせいもあるんでしょうが)。
なんだかオヤジ達がかっこよく見えてくるんですよ、本当に、マジで。
あくまで私の主観にすぎないんですけどね。音楽の不思議な力を見た気がしました。


以下寸評(当然私の独断と偏見に満ちた)

カシオペアwith神保彰
(Guitar:野呂一生、Keyboards:向谷実、Bass:鳴瀬嘉博、Drums:神保彰)
1977年結成、79年メジャーデビュー、今なお現役の人気グループ。
今回出演の中で、いや、「フュージョン」というジャンルの中で、スクエアと並ぶ2大人気グループだろう。スクエアと比べてメロディーラインに派手さはないが、プレイスタイルが派手(あるいはタイトとでも言おうか)なのが特徴だと私は思っている。
今回サポートメンバーだった神保彰は日本を代表するドラマーで元々カシオペアのメンバー。途中から加わり、それに伴って演奏がよりタイトに、そして人気も上がっていったと記憶している。この重量感のあるドラムを生で聞けただけでも満足。


松岡直也グループ
(Piano:松岡直也、Bass:高橋ゲタ夫、Guitar:大橋イサム、Keyboards:大坪稔明、Congas:田中倫明、Timbales:大儀見元、Drums:岩瀬立飛)
この手のフュージョンを齧り始めた大学生の頃、テレビで見た(Mt.FUJIだったか?)松岡直也グループに衝撃を受けた。どこでどうやってタイミングをとっているのやら、まさに「一糸乱れぬ」とはこのことか、と思うほど見事な演奏だった。
その当時、ギターは是方博邦、ドラムは村上“ポンタ”秀一(サポートメンバー)だったと記憶している。おそらく当時のメンバーは高橋ゲタ夫しかいないだろう。
松岡直也はCDだと柔らかいフュージョンが多いような気がするが、生演奏は非常にアグレッシブで迫力がある。
音楽生活50周年、松岡オジサン未だ衰えず・・・と言いたいが、いや、衰えたよ、やっぱり。音響のセッティングもイマイチで、ピアノの音が出ないというトラブルもあったとはいえ、うーむ・・・。


NANIWA EXP(ナニワ・エクスプレス)
(Bass:清水興、Keyboards&Sax:青柳誠、Guitar:岩見和彦、Keyboards:中村建治、Drums:東原力哉)
1977年結成、82年メジャーデビュー、阪神優勝の翌年の86年解散。2000年に限定復活の後、02年に完全復活だとか。
すごいすごいと噂には聞いていたが、演奏を聞くのは初めて。
さすが関西人、サービス精神旺盛。今回出演の中で一番面白かった。笑ったという意味ではなく、演奏が派手。パフォーマンスに満ちている。「どうでっか?演奏してまっせ」という感じがある。一緒に行ったヨメに言わせれば「音が関西弁」。
それもこれも腕が確かだから成り立つこと。


鈴木茂 with Friends
(Guitar&Vocal:鈴木茂、Bass:田中章弘、Drums:宮田繁男、Guitar&Vocal:岩澤二弓 他)
鈴木茂である。あの鈴木茂だ。日本製ロックの祖「はっぴいえんど」の鈴木茂だ。
「はっぴいえんど」と言えば、言わずと知れた大滝詠一、細野晴臣、そして日本一の作詞家に転身した松本隆(当時はドラマー)との4人組(活動は69年〜72年)。解散後、キャメル・ママ、ティン・パン・アレーと活動していたはずだが、その後どうしたんだ?というわけで、常に「はっぴいえんどの」と言われてしまう気の毒な人だ(<勝手に気の毒がっている)。ちなみに私は彼のソロアルバムを1枚持っている。
もうすっかり枯れちゃって、「最近は3コードくらいの綺麗なメロディーを目指してる」とか言ってた。
ちなみに今回出演の岩澤二弓(ブレッド&バター」の弟の方)はアコースティック、おまけにストリングスまで出てきて、もはや何を目指してるんだかよく分からなくなっている。ナニワとスクエアの間だったせいもあり、非常に地味だった。


THE SQUARE(スクエア)
(Guitar:安藤まさひろ、Sax,Ewi&Flute:伊東たけし、Piano:和泉宏隆、Drums:則竹裕之、Bass:須藤満)
1978年デビュー、現在は2人体制だが、今年はデビュー25周年記念として5人体制だとか。
今回出演の中で1番人気。フジテレビF1中継のテーマ「TRUTH」の時が一番会場が盛り上がったろう。
正直言って、私はスクエアがフュージョンをダメにしたと思っている。
さすがにこれだけのキャリアだから演奏は上手いが、軽い。ひたすら軽い。
何が人気の理由なんだ?ただ単にメロディーがキャッチーなだけじゃねえか。
なんだかバブルの匂いをプンプン感じるスクエアが元々嫌いなのだが、この一流集団の中に混じると明らかに「格下」の感じがした。


PARACHUTE(パラシュート)
(Keyboards:安藤芳彦、Guitar:今剛、Guitar:松原正樹、Bass&Vocal:マイク・ダン、Percution:斎藤ノブ、Drums:林立夫、Keyboards:井上鑑)
今回出演の中で唯一「誰だよそれ、知らねーよ」思っていたグループ。
ところがどっこい、メンバー見たら今回出演の中で一番凄いメンバーかもしれない。一流の上に超をいくつ付けても足りないくらいのスタジオ・ミュージシャン(セッション・ミュージシャン)集団。18年ぶりの再結成とかで、80年代初頭に3年間で4枚のアルバムを出していたそうです。本人達曰く「解散したつもりはなく長い間休んでいただけ」って、18年も休み過ぎだろ!ってツッコミたくなりましたが、このメンバーのスケジュールが合うはずがない。

斎藤ノブは日本一のパーカッション・プレイヤーで、イカ天の審査員などもやっていたので顔も知られている。「ノブー!」の掛け声も多かった。
ドラムの林立夫は、山木秀夫と並ぶ日本屈指のスタジオ・ミュージシャン。ドラムで有名なのは神保彰と村上“ポンタ”秀一ですが、派手さは無いけど堅実なドラムを聞かせてくれます。
中学・高校と、おにゃん子くらぶ登場以前まで、私はアイドル通(オタク)と目されていたわけですが、実はアイドルそのものよりも曲の提供者(作詞・作曲・編曲)や演奏者への興味が主だったのです。
で、その時代に散々名前を目にしたお歴々。私の記憶が確かならば(たいがい不確かですが)、ドラムの林立夫は全盛期の松田聖子の、ギターの松原正樹は中森明菜のアルバムの演奏に参加していたはずです。それ以前に、林立夫は「ロング・バケーション」(大滝詠一)だわな。
もう一人のギター今剛は、井上陽水のツアー・メンバーで「ギターの弾ける安斎肇」として我が家ではすっかりお馴染み。「コンちゃん」の愛称で呼んでいます。もう20年以上も前のアルバムから名前があります、きっと。(たしか松原正樹も陽水のアルバムに参加したことがあったはずだ)。
そしてなんと言ってもキーボードの井上鑑。私はアレンジャーとしての彼の手腕を高く評価していた時期があり、ソロアルバムも1枚持っていました。久しく名前を聞いていませんでしたが(私は)、こんな所にいたとは!

ドラムとパーカッション、2ギターに2キーボードというツイン構成なんですね。
どうしても松原vs今のギターバトル!みたいなウリになるらしいんですが、いや、もちろんそれも凄いんですけど、コンビネーションというか、2つの音がシンクロする瞬間が気持ちいい。派手なパフォーマンスは無いけど重厚な音は迫力満点。
ただ、時折入るボーカルが、決して下手ではないのですが、バックの一流の音に負けてしまう。
CDで聞くと(こんなバンド知らないとか言いながら、家捜ししたらフュージョン大全集みたいなコレクションの中に数曲入ってました)、そこはスタジオ・ミュージシャン集団、きちんとボーカルを活かした演奏をしているんですけど(ミキシングとかの関係もあるのでしょうが)、ステージだとどうも。
それにほら、我が家は井上陽水、吉田美和、綾戸智絵といった「歌うために生まれた人」のライブしか見たことないから。


高中正義 with Friends
(Guitar:高中正義、Bass:後藤次利、Percution:斎藤ノブ、Drums:そうる透、Keyboards:南部昌江、Keyboards:松本圭司)
泣く子も黙る高中御大(子供は知らんて)がトリ。
パンフレットに「当時、山下達郎と共に“リゾート・ミュージック、一家に一枚のアルバム”等々、数々の公衆名言を世に作り出した」と書かれていましたが、まさにその通りで、私なんかバリバリ高中聞いてた気がしていたんですが、よく考えたら一枚もソロアルバム持ってない。すっかり持ってる気になってました。
昔、どこかで誰かが「ギターでホールを満員にできるのは渡辺香津美と高中正義だけだ」と書いていましたが、相変わらず不動のナンバー1ギタリストであることは間違いない。
高中のギターは音が違う。
昔「ラブラブ愛してる」って番組があって、それの第一回、KinkiKidsの番組だってんでヨメが見始めたんですね。吉田拓郎が出るってのに興味があって、私も(他のことをしながら)背中で聞いていたんです。オープニング「ジャカジャーン」思わず振り返りました。「えっ!?高中!?」分かるんです、音だけで。マイルス・デイビスなど最も分かり易い例ですが、超一流のプレイヤーの演奏は巧いだけではなく、声と同じで特徴があるんです。それはもう言葉では言えない張りとか艶とか。山下洋輔と綾戸智絵がジョイントしたことがあって(TVで観たのですが)、山下洋輔のピアノで綾戸が演奏する場面があったんです。同じピアノなのに音色が違う。どちらが巧いとか下手とかではなく、明らかに他人とは違う「声」を持ってる。
井上陽水の(また陽水の話かいっ!)「なぜか上海」のイントロなんかもう、高中のギターが泣くのだよ。
なにしろギターは高中の「声」ですから、今回ステージ上で(ラストのメンバー紹介以外)一言もしゃべらなかった。「イエーイ!」とか「みんな乗ってるかーい!」とか全部ギター(笑)。いや、本当に。曲の間に「ギュイーン」って。で、観客も「ワー!」って。コミュニケーション・ツールなんですよ、ギターが(笑)。
全く違うんですね、音が。特徴として私が感じているのは、高中のギターは悲鳴を上げないこと。
よくギターの高音で、プレイヤーも苦しげな顔しながら演奏することがあるでしょ。あれはあれでカッコイイんだけど、高中のギターは決して苦しげな「悲鳴」は上げず、美しいファルセットを聞かせるのです。

そして今回のサポートメンバーの後藤次利。私は高校生の頃から彼の大ファンで、ソロアルバム全部持ってる(LP)。
CD化されないかなあ。1枚CD化されてるんだけど、ベースの教則本みたいで一番ツマランやつ。CD化されねえよなあ、彼独自のレーベルで発売されたんだけど、売れなかったもんなー。結構ニュースなんかのバックで使われてたんだけどなー。ちなみにそのレーベルからデビューしたグループが「レベッカ」で、最初は後藤次利がプロデュースしていたはず。しかしレベッカが売れたのは天才メロディーメーカー土橋安騎夫(この人のソロアルバムも持ってるな)が加わってからで、後藤次利の力ではないのだな。ハッハ。(おにゃん子くらぶが売れたのは彼のおかげだが)。

高中正義と後藤次利と言えば、日本ロック革命をもたらした「サディスティック・ミカ・バンド」(活動は71年〜75年)。早すぎた天才・加藤和彦が「フォーク・クルセダース」の次に作ったバンドで、結成当初はつのだひろもメンバーだった。メンバーは加藤和彦とその妻・ミカ、ギター・高中正義、ドラム・高橋幸宏、ベース・小原礼、後に加わったキーボード・今井裕というメンバー。
「タイムマシンにおねがい」を収めた日本ロック史上に残る傑作アルバム『黒船』を74年に生み出します。このアルバム中「嘉永6年6月2日」から始まる黒船3曲は圧巻。今回、「嘉永6年6月4日」を演奏してくれて、生で聞けて涙もの。
ちなみに後藤次利が小原礼に代わってミカ・バンドに加わったのは75年のイギリス・ツアーから。ツアーは成功したものの加藤夫妻は破局、バンドも解散となる。ちなみに後にYMOで成功を収めた高橋幸宏オジサンは、「二度も海外で認められた」貴重な日本人ミュージシャンである。
ミカ・バンド解散後、高中・高橋・今井・後藤の4人で「サディスティックス」(77〜79年)を結成。しかしその時期、高中は既にソロで、幸宏オジサンはYMOで、後藤次利は木之内みどりと駆け落ち(そのせいで少し芸能界から干され(?)後藤次利の復帰作が沢田研二の「TOKIO」の編曲である)と各人忙しくわずか2年でその活動に幕を閉じた。ヒットはしなかったが、後に与えた影響は大きかったと言われる。私もベスト・アルバムを持っているが・・・あんまし面白くない。
残念ながら今回、後藤次利の演奏はいまいちパッとしなかったが、私は満足している。20年前にチョッパーを弾けた数少ない日本人、日本一有名なベーシストの演奏を生で聞けたのだから(オイオイ、メインは高中だろ)。

後藤次利のベース、パラシュートに続いて登場の斎藤ノブのパーカッション、やたらノリノリでガンガン飛ばしまくったそうる透のドラムと、いや、もう、アクの強い演奏。それをものともしない高中のギター。力任せでもなく、かわすわけでもなく、堂々と正面から受け、しかもねじ伏せてしまう凄さ(と軽やかさ)がある。
やはり高中正義がトリであったことが、全ての観客が満足できた要因だろう。いやー、ホント、泣いたよ、俺は。
ちなみに前の席に座っていた若いカップルはスクエアが終わったら帰っちまった。もったいない。


というわけで、とても楽しかったのさ。
熱く語る相手もいないもんだから、ここに熱く語ってしまったというわけさ。


つづく<つづくのかいっ!