2002年10月17日(木)のひとりごと 「池山引退試合」


これまたアップが遅れたが17日のひとりごと。(長いけど面白くない話)

昨日に引き続き私は神宮球場にいた。

今シーズン最終戦。そして池山隆寛(36歳・背番号36)の引退試合
球界一の大型ショート。ブンブン丸。万年Bクラスのチームが常に優勝争いに加わるチームに育っていく過程を体現してきた選手。チームを一躍人気チームに育てた立役者。
似たようなロジックをモー娘。の中澤裕子の時にも書いたが、どうやら若い子達はその全盛期を知らず、「代打の切り札」「三振王」程度にしか思ってないようだ。だが、彼の19年間の選手生活がスワローズファンのキャリアとほぼ一致する私にとって、つまり全盛期以前から見てきた者にとって、池山隆寛は間違いなくミスタースワローズだったのだ。

昨日閑散とした球場で引退した青柳には気の毒だが、球場は超満員。階段や通路に立ち見の人がすずなり状態。当然シーズン中にはあり得ない混雑。日本シリーズの時はほとんどが指定席なので混んではいるが整然としている。これほどの混雑を神宮球場で見たのは初めてだ。
蟻の這い出る隙間も俺がビールを買いに行く隙間もない。売り子も売りに来る余裕がない。しまいには売るものがない。全然分かりにくい例えだが、それくらい超満員だったのだ。

池山は最後の挨拶の中でこう言った。
「ライトスタンド!応援団長・岡田のオヤジ、ありがとう!」
スワローズファンにはこれだけで充分だ。
岡田さんは7月に他界された。
それは誰だ!?と思われるだろうが、スワローズファンで知らない者はいない応援団長である。
決まって7回か8回にやって来る。岡田さんが来るとスタンドが盛り上がる。応援が締まる。
神宮のテレビ中継などで8回裏の初めに意味もなくライトスタンドが盛り上がっていることがあった。それは岡田さんが来た時だったのである。
ヤクルトの応援団は岡田さんが作ったと朝日新聞に書かれていた。つまり私が生まれる以前から応援団長であり、天下の朝日新聞の記事になるほど有名人だったのである。
実は岡田さんが亡くなる直前、マンガののちゃんで「最近岡田さん見いへんな」とおばあさんの台詞としていしいひさいちは書いている。そんな4コママンガを見てほとんどの人は思ったはずである。
それは誰だ!?

岡田さんへの追悼からか、この夏ヤクルトは快進撃。引き分けを挟んで15連勝。8月は19勝5敗。一度点灯した巨人のマジックを消したのだ。だが秋風と共にその勢いは止まり、結果首位と11ゲーム差の2位。安心して見ていられるローテーション・ピッチャーが2人しかいない状況でよくやったと言えよう。

スワローズファンだと言いながら、選手の応援歌はおろかチームの応援歌すら知らない私だが、さすがにこの日ばかりは繰り返し歌われた池山の応援歌を覚えてしまった。
たしか「ナントカカントカ(<覚えてねーじゃねーか)〜狙えホームラン〜レフト場外へ〜」みたいな感じだったが(<全然覚えてない)、これには大変異議がある。
ブンブン丸という愛称が付いたように、豪快にバットを振り回し「三振かホームランか」という選手だった(野村監督になる以前は)
だが、そういうバッターだから強引に引っ張り「レフトスタンド」へホームランを打つというのは、単なる思い込みに過ぎない。
実はこの日のヒットも映像で振り返る過去のホームランもほとんどセンター方向なのだ。ブンブン丸という愛称が付けられる以前から、私と友人は「ミスターバックスクリーン」と呼んでいたものだ。人間とはなんと固定観念に捕らわれた生き物なのか。
ちなみに大学時代、友人と私はよくプロ野球選手に名称を付けたものである。村田(元巨人)「球界一バカ面」、吉村(元巨人)「球界一豚」、駒田(元巨人)「球界一馬」等々。ええ、そうですとも。私は巨人嫌いです。

そんな池山がスタメン(スターティング・メンバー)3番ショートで出場。あちこち怪我だらけで満身創痍の彼がスタメンなんていつ以来か。
日本一のショート宮本慎也にポジションを譲ってからショートを守るなんて何年ぶりか。
スタメン発表で観客は大歓声。(今シーズン出番の少なかった飯田や土橋といった、彼と一時代を築いたベテランをスタメンに起用するという若松監督の粋な計らいもあった)。
最初の打席。初球空振り。大歓声。
痛い右足を引きずりながらライナーをジャンピング・キャッチすれば大歓声。
途中、ファーストに守備を移ったが、ゴロを処理すれば大歓声。
観客に手を振れば大歓声。とにかく何をやっても大歓声。
昨日の青柳が気の毒だ。

8回。池山に打順が回ってきた。おそらくこれが最後の打席になるだろう。観客は総立ち。声を限りに応援する。スタンドの一体感ですら感動物だったのに、なんと池山がヒットを放ったのだ。痛む足を引きずりながら2塁打。泣いたよ。みんな泣いてたよ。ありがとう、池山、本当にありがとう・・・

ところが、試合は延長戦になってしまったんだな。
10回表に点を取られ、1点ビハインドでの攻撃。一人出塁すれば池山まで打順が回ってくる。
1アウト・ランナー無し。一時代を築いた同胞・飯田がセーフティーバントで執念のヘッドスライディングで出塁。
ベテランの意地に目頭が熱くなる。これで池山まで回る!
いや、安心するのはまだ早い。ここで続く稲葉が内野ゴロでダブル・プレーになってしまえばゲーム・セットだ。
まかり間違ってホームランなんか打ってしまったら、これまたサヨナラ勝ちで試合終了だ。
頼む!ヒットでつないでくれ!
そんなファンの期待を大きく裏切り、なんと稲葉は送りバントをしたのだ。そうか、その手があったか!

ペナントレース最終戦。10回裏、1点差で負けている状況。2アウト、ランナー2塁。バッターは池山。
ヒットで同点。ホームランならサヨナラ勝ち。アウトならゲーム・セット。
1年間の試合の締めくくりを、19年間の選手生活を締めくくる男のバットが決めるのだ。
映画やドラマだったら「出来すぎ」と言われてしまうような状況が、今、現実のものとしてここにある。
ええ、ええ、そりゃもう、すごい盛り上がりでしたよ。
そしてブンブン丸は、観客の期待に応え、見事な空振り三振でその選手生活を終えたのだった。


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