2002年9月17日(火)のひとりごと 「歴史に残る日・・・のはずだったのに」


小泉首相が訪朝した。金正日が拉致や不審船を認め謝罪した。
あまりに痛ましい結果に言葉を失った。拉致被害者家族の心中を察するに、私も心痛む思いだ。
簡単に「かわいそう」などとは言いたくない。「かわいそう」という言葉の響きは、どこか自分は高みに立って対象を見下している感じがするからだ。
ただ、ただ、言葉も無い。哀悼の思いを伝える言葉がみつからない。

だが、被害者家族の神経を逆撫でするようで申し訳ないのだが(もちろんそんなつもりは毛頭無い)、「日本外交の敗北」といったマスコミの報道はどうだろう?首相官邸に殺到したという抗議の電話はどうしたもんだろう?「そんな無法者国家と国交を結ぶな!」という世論なのだろうか?自分達の国が35年間も蹂躪していた事実は棚に上げてというわけか?そして日本人も言うのだ。「あれは軍の一部が行ったことだ」と。豊臣秀吉の時代から侵略戦争を行っていたことを棚に上げてだ。歴史の長いスパンで見れば、侵略したことはあっても侵略されたことはなく、おまけに300年も鎖国をしていた「異常国家」こそ我が国ではないのか?

私は小泉首相は好きではない。だが今回ばかりは評価しよう。あの北朝鮮に自らの非を認めさせたなんて、まだ世界中の誰もやってない偉業ではないか。もちろんこれで拉致問題が解決したわけではないし、解明されるべき問題も無数にあるはずだ。外務省の対応のまずさや今までの政府の対応の悪さなど非難されるべきこともたくさんある。
しかし、「今後こういったことが起きぬよう国交を正常化させたい」という小泉首相の言い分は論理として筋が通っていると思う。
ご遺族が怒るのは当然だ。感情的になるのが普通だろう。
だが、識者と言われる人間や政治家なんかが論理でなく感情論を振り回すのはどうだろう?マスコミは反朝感情を煽ってどうしようというのだろう?国民全員が感情的になって何を望んでいるというのだろう?「これからどうするべきか」という建設的な意見ではないのだなあ。論理よりも感情が先走っているのは外交として正しいとは思えないのだが?

そんな中、私が最も注目しているのは
金正日が謝罪したなどということは、おそらく北朝鮮国内では一切報道されていないだろうということだ。
“国民感情”という言葉を口にする日本とは対照的に、北朝鮮の国民は感情どころか情報すら得られない。
国民は何も知らされず、何の変化もないまま、本当に国交正常化や南北統一などできるのだろうか?

亡くなった方々のご冥福を祈りたい。



そんな歴史的な足跡が刻まれた頃、
なんと我が職場では宴会をやっていたのである。

簡単に言えば社員旅行みたいな会なのだが、旅行の代わりにお食事会というわけである。
豪華ホテルで美味しいディナーとピアノ生演奏による美しい音楽。幹事の趣味に合わせて上品で高尚な集いである。
当然、幹事は私だ。(全部で4名いたんだけどね)
さすがの私でも、まさか小泉首相がウチの宴会に合わせて訪朝するとは予想だにしなかったのだが。

たいがいこの手の幹事は若手がやるものというのが世間の通り相場だが、「いつまで若手をやらせるんだ!」と思いつつ、若手不足のため結局幹事をやるハメになったのである。そうは言っても、もう若手とは言えないお年頃の私は、幹事やら司会やら、その辺の若手とは踏んでる場数が違う。そういうわけで幹事長という野中広務か金丸信のような名前をいただいたので、私は鵜飼となり、司会などは総て(=若手)に任せることにしたのだ。

司会をする若手の男(以下「鵜」)は「台本がないとしゃべれない」と言う。
もちろん台本を書いてやってもよかったのだが、これも勉強だし、第一、自分の言葉で書かないとしゃべりにくいもんなのだ。
そういうわけで私は進行表をつくってやり、話す要点を教えてあげたのだ。

鵜「原稿を作ってきますから見ていただけますか」(←言葉遣いは丁寧)
私「ああ、いいよ」

・・・作ってこない

まあ、台本が無くて困るのは自分だし、失敗してもどうせ内々の宴だからいいんだけど。

いよいよ連休を挟んで次の日が宴会当日。まだ原稿を作ってこない。
鵜「連休でやってきますから。当日の朝、見てもらえますか」
私「ああ、いいよ」

・・・作ってこなかった

鵜「いやあ、実は9日連続で高熱が続いてまして」

・・・何の病気なんだ?

私「じゃあ、今日行けないのか?」
鵜「いえ、それは大丈夫です」

後で気付いたが、高熱のわりにフルコース全部食べてたな


私「じゃあ、連休は寝込んでたんだ」
鵜「いえ、海釣りに行ったんです


・・・高熱だったんじゃないのか?


鵜「海釣り行ったらぶり返してしまいまして」
私「でもそれくらい釣りが好きなんだ」
実はそうでもないんですけど


意味わかんねーよ 
 だったら台本書けよ



結局彼は、当日会場に着いてから受付等の準備中に一人黙々と台本を書くことになった。

鵜「緊張してきましたよ。少し酔っぱらってやった方がいいですかね。始まる前に少し飲んじゃいましょうか。ハハハ」
私「そうだな。ハハハ」


まさか本当に飲むとは思わなかったぞ
 しかも中ビン1本 



私「ところでさあ、俺が書いた進行表と要点は?」
鵜「ああ、あれですか。どこにいったんでしょうね



・・・無くしたな (-_-#





しかしまあ、内々の会だし、赤ら顔で司会をしていても始まってしまえばそれなりになんとかなってしまうもんである。

そんなこんなで宴もいよいよエンディング。
司会が「お開きのお時間です」的な事を言い「本日はありがとうございました」ってんで幹事一同深々と頭を下げる。会場から拍手が起きる。私の狙い通りだ。
そして深々と下げた頭を上げてふと気付く。

一番偉い人がいなくなっている。どうやらトイレらしい。

いくら内々の会とはいえ、偉い人がトイレから帰ってきたら既に散会していたというわけにもいくまい。
「オーイ、どーすんだー」と会場からツッコミ。オロオロする司会。
仕方ない。ここは私の出番だ。やおらマイクを掴んだ私は開口一番言い放った。
「まさかいなくなっているとは思いませんでした」(ウケる会場)
つなぎトークの間にすぐに偉い人が戻り、再び私
「大変まぬけな形になってしまいましたが、今度こそ本当のお時間です」(会場の拍手)
おかげさまで、帰り際皆さん口々に「面白かった」と言って下さいました。



・・・ちょっと待て





美味しいディナーと美しい音楽の夕べ




上品で高尚な宴




どこに面白い要素があったというのだ




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